■清潔な詩情■

森 孝明

 

高橋正子さんの句歴は、昭和四十年に愛媛大学俳句会に入会したときから始まり、故川本臥風の「いたどり」を経て、現在は夫高橋信之創刊の「水煙」編集発行人として活躍中である。三十五年に及ぶ作句生活は多彩であるが、その特徴の一つは、師川本臥風が評したように、句の清潔さであろう。

 秋水湧く波紋をそのまま手にすくう

秋水を「しゅうすい」と読むと、それだけで秋の水の冷たさや清潔さがじかに感じられると臥風は評した。透明な質感は次の句も同じ。

 満月光地上に高きコスモスに

 正子さんは空が好きである。その空を光や音を通して眼前に広がる大きな空間として形成してみせるのがうまい。

 鐘の音のわれを包んで夏空へ

ドイツの古都ヴュルツブルクの街並みにそびえる教会から鳴り響く鐘の音。それは初めて訪れた作者を親しく包んで夏空へ立ちのぼっていく。澄んだ音に包まれて作者の心も自由に広がり、そこに在る自分を率直に感じ取っているのである。

 昭和四十四年に結婚して二児の母親となってからは、家族やその生活から生まれた句も多い。しかし不思議に俗っぽくなく、カラッとした詩情がある。

 すずしさに星座の話読みつなぐ

 青年ら鮎を食べんと畳の間に

 正子さんはご主人(会長)と共に「えひめ子ども俳句会」を指導していて、自身も純真無邪気な感覚を発揮する。

 来たぞ来たぞいつもの目白が蜜吸いに

 「私らしくあること」を大切に、「あるがままをあるとおりに表現する」ことを目指す正子さんの透明な清潔さは、最近の句にあってますます自在な心でもって深まってきた。

 耕して水仙を天まで匂わせる

 鴨浮ぶ池の青さのまっ平ら

(愛媛大学教授)