自選100句/1965年〜2000年
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自句自解/高橋正子
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自選100句/高橋正子(俳句雑誌「水煙」編集発行人)


【春】
梅の花遠きに咲きて白さ満つ
春雷の稲妻あかりを胸に受く
春の蕗提げしわれにも風が付く
身を固く春雪吹くを帰り来る
 芸予地震
朝霞青し余震に覚めてより
手渡されながら花桃散りいたり
稚き葉の白く開きて潅仏会
芽柳のるると色燃ゆ向こう岸
 清澄橋
ケルンの橋青く塗られて春の橋
来るまでを辛夷のひかり見て待てる

春水の流るる音をパソコンに
春月の光りにも触る午前二時
濃きお茶に春の灯しを入れて飲む
春ほのぼの棚にあげたる書の紙も
独活放つガラスボールが水の玉
 句美子
受験子の髪ふっくらと切り揃う
鉛筆を削る木の香の春めくを
 東山・法然院
春寒し木を打ち人を呼び出せり
  東山・慈照寺二句
春苔に泉滴り深きみどり
花馬酔木しずけきものに山の道

 慶大日吉キャンパス
煙る銀杏芽吹く気配を一心に
宵風の白みて強し犀星忌
白木蓮あふれ咲きいるここの家も


【夏】
アカシヤの花に青空寄りかかる
麦焼きの煙遠きを満たしける
牡丹を大きな風が吹き上げる
新緑にひとり自尊を強めける
さざめきてポプラ若葉は雲に会う
聖書繰る野の青麦を思いつつ
アカシヤの全樹の花を仰ぐなり
青蔦に夕陽あまねき道を帰る
階の濡れしに青葉映りたり
明易きときをラジオのミサ合唱

祭笛山あじさいも街中に
大川に潮の匂うや三社祭
浜名湖の水の五月を新幹線
明け易し山の水栓使いしあと
緑蔭の鴨も緑に染み歩む
てのひらに書を読む梅雨のすずしさに
天草の乾いた軽さを腕が抱く
 「刺客の青い花」(西垣通著)に寄す
ヒマラヤの夏嶺の罌粟を思わずや
わが視線揚羽の青に流される
急行の海光まとい蓮葉過ぐ

遠巻きの蝉音となって今朝の空
にが瓜の苦さに酔いて月すずし
夏蒲団糊の匂いて身に添えり
白桃の無疵を少女に剥き与う
青田みな青嶺へ靡き吹かれける
  久万中学校
教室の窓に青嶺の高々と
病葉の樹を離れては流れ飛ぶ
淀川の風が日傘を吹き上げぬ


【秋】
古き昔の母の花なりおしろい花
草は花を娘の誕生日の空の下
瞳に映るあわき黄色の稲の花
淀川の初秋の水の岸濡らす
淀川の上に集まる初秋の雲
葛の花匂わすほどの風が起き
 阿蘇
丈低きりんどう草に澄みてあり
稲穂田の隅にごぼごぼ水が鳴り
とんぼ触るる水に草かげ空のかげ
朝は深し露草の青が育ち

月明に栃はゆたかに葉を広げ
マンジロウ南瓜鉄色宿坊に
杉の秀に秋の入日の溜まり来る
鶺鴒のぱっぱと石を水を飛び
コスモスに水に祭りの神の来る
秋宵宮星に声あぐ子の行列
ポプラ黄葉雲寄り雲のまた流る
 慶大SFC
月澄んでガラス巡らす研究棟
 多摩美大
欅散る大きな風のありさまに
十五夜の箱根山道踏みおりぬ

 旧制松山高校の碑
青春の碑につぎ桜紅葉見ゆ
香たきぬ月より風を吹かしめて
冷たさも露けさもスライスオニオン
鶺鴒と蜻蛉と浅き田の水に
月澄みぬもっとも明るき池の面
吾亦紅枯れる紅さを灯にかざす
ひつじ田の金色見せて予讃線
手に触れて固き林檎を二つ選る


【冬】
元日の木々と空とに迎えられ
あたらしき薪を傍積み暖炉燃ゆ
ほの明るき寒雨は山に霧となる
寒林を行けばしんしん胸が充つ
冬木立名を呼びくれしは赤き日か
冬の夜の捨つべきものを分け終えぬ
薪ストーブ静けき熱をわれらに放ち
枯草を踏みおり人に離れおり
ストーブの電気の熱の身に移る
冬鴎白くて白い船に来る

寒中もさくらさくらの字を飾る
寒日和くだきし餅の干されける
水仙の香を吸いながら活けており
水仙の枯れし終わりを折りて捨つ
空港の冬となりいし玻璃全面
  芦ノ湖
暮れなむと湖のあかりの冬青し
  中野・宝仙寺
亜浪忌の墓碑の亜浪の字に見覚え
しみじみと刈田に差して原始の陽
鴨に目をやりて傘より雨しずく
鈍行のことこと芽麦を渡りいる 

芽麦まで遠き夕陽の差しいたり

(2001年〜2002年作品/2002年6月15日更新) 


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