更新:2003年2月4日


オンライン句集花冠高橋正子の俳句 


月の樫(昭和41年〜昭和54年)
花のころ(昭和55年〜昭和61年)/ドイツの旅(昭和62年〜平成2年)
深川(平成3年〜平成11年)
春の塩(平成12年)/花冠(平成13年〜平成14年)

春の塩/平成12年


新年・冬
火が焼ける餅のきよらを身に映す
寒椿登りつ行けば白まぶし
山中に鵯鳴きわが身まっ二つ
寒林を行けばしんしん胸が充つ
冬木立名を呼びくれしはあかき日か
冬柳沖の白さの無量光
南天の実も水音もかがやかに
水仙の枯れし終わりを折りて捨つ
ほのあかるき寒雨は山に霧となる
野の枯れに沁みて降る雨ぞんぶんに
鴨泛かぶ池の青さのまっ平ら
笹鳴きに薮のひかりのささめける

春
春の夜のむかし炭火を持ち運び
春の塩ぱらぱら振れば菜はみどり
春の夜のむかし炭火を持ち運び
桜芽木別れのドアを閉じて去る
花なずな空のきわみに鳥が鳴き
帰る日の近づき鴨は脚あかく
帰る鴨遊べば雨の水輪増ゆ
初ひばり田舎の空の傾きぬ
稚き葉の白く開きて潅仏会
たんぽぽの黄の散らばれる地に朝日
芽柳のるると色燃ゆ向こう岸
春雷のいなづま明かりを胸に受く
さびしさを深めてあはれ雉啼けり
花冷えに心あおあお棲みいたり
来るまでを辛夷のひかり見て待てる
 水煙創刊200号記念大会・東京へ
春の富士真白き峰はま向こうに
 清澄橋
ケルンの橋青く塗られて春の橋
 深川・ホテルB&G
春宵を地酒並べてほがらかに
 隅田川
都鳥春の空より羽音させ
行く春の大川波の寄せ来る
 深川・芭蕉記念館
新緑の翳るときあり水があり
 砥部・真砂家
満天星に水はくらきを流れ来る

夏
焼き鮎の熱きうまさを悲しまず
青蔦に夕日あまねき道を帰る
ハム削ぎ切り新玉葱の白を載せ
井戸水をざぶんと汲めりアマリリス
抽んでてまだゆらゆらと今年竹
階の濡れしに青葉映りたり
てのひらに書を読む梅雨のすずしさに  
青年ら鮎を食べんと畳の間に
風鈴に木々のみどりの集まりぬ
 鎌倉街道三句
昼顔を眸に映し旅ひとり
竹林に夏の真青な水打たれ
鎌倉へ合歓の一樹の花盛り
 ベイ・ブリッジ
梅雨明けの海の真上を渡りきる
 横浜
女学院の丘の緑の梅雨明ける

秋
淀川の初秋の水の岸濡らす
淀川の風が日傘を吹き上げぬ
水に触れ水に映り手蜻蛉飛ぶ
さわやかに行きし燕の戻り来る
青穂田の密なるそよぎ一面に
パソコンを消して露散る夜となりぬ
円盤の刃に秋草のきらきら散る
草は花を娘の誕生日の空の下
月明の寺に湯浴みの湯をたまわり
マンジロウ南瓜鉄色宿坊に
鶺鴒のぱっぱと石を水を飛び
 慶大湘南藤沢キャンパス
月澄んでガラス巡らす研究棟
 多摩美大
欅散る大きな風のありさまに
 芦ノ湖
暮れなんと湖のあかりの冬青し
十五夜の箱根山道踏みおりぬ
ポプラ黄葉雲寄り雲のまた流る

冬
 中野・宝仙寺
亜浪忌の墓碑の亜浪の字に見覚え
臥風忌の今日にわが句の刷り上がる
 マリアッタさん夫妻と
薪ストーブ静けき熱をわれらに放ち
新巻に荒縄しっかとかかりたる
枯草を踏みおり人に離れおり
入学せし門は閉じられ冬紅葉


花冠/平成13年〜平成14年
平成13年新年・冬 元旦の木々と空とに迎えられ 冬鴎白くて白い船に来る 寒中もさくらさくらの字を飾る しみじみと刈田に差して原始の陽 春 春の蕗提げしわれにも風が付く 春水の流れる音をパソコンに 春月の光りにも触る午前二時 濃きお茶に春の灯しを入れて飲む  不器男記念館 詩人死してただ春風の竹葉吹く  芸予地震 朝霞青し余震に覚めてより さざめきてポプラ若葉は雲に会う 春ほのぼの棚に上げたる書の紙も 白木蓮あふれ咲きいるここの家も  羽田空港 空港のつばなきらめく風に立つ  メトロポリタンミュージアムのかば かばの青かばの孤独の春惜しむ  横浜 雲低く飛んで港に春の海霧(ガス) 夏 北にきて柿の若葉にまた会いぬ 聖書繰る野の青麦を思いつつ わが視線揚羽の青に流さるる 明け易き時をラジオのミサ合唱 風邪に寝て遠く聞き分く夏鶯 夏潮の魚をひらひら遊ばせる 急行の海光まとい蓮田過ぐ 夏蒲団糊の匂いて身に添えり 紫陽花を抱え魚屋に魚を選る 白桃の無疵を少女に剥き与う 部屋を得て少し書を読み涼しかり 古き昔の母の花なりおしろい花 青田みな青嶺へ靡き吹かれける  久万中学校 教室の窓に夏嶺の高々と 秋 朝は深し露草の青が育ち 稲穂田の隅にごぼごぼ水が鳴り 西瓜食むどこかしらしらした思い  阿蘇二句 火口歩む秋天いよいよ高くあり 丈低きりんどう草に澄みてあり とんぼ触るる水に草かげ空のかげ  お香「涼暮月」 香たきぬ月より風を吹かしめて  光雅さんの玉葱 冷たさも露けさもスライスオニオン 炊き上がる米の光りにぎんなん混ぜ コスモスに水に祭りの神の来る 秋宵宮星い声あぐ子の行列 手の中の木の実の熱き山の暮れ 手に触れて硬き林檎を二つ選る しろじろと穂芒空にそよぐなり 詩に倦んで親しき灯火を小さくす 冬 芽麦まで遠き夕陽の差しいたり 鈍行のことこと芽麦を渡りいる 冬泉散り入るものに日の光り  久万高原 夕冷えに校舎木の香を外に放ち


平成14年新年・冬
芹育て橋を潜れる速き水
冬運河暮れゆく潮遡る
冬泉手にやわらかに旅半ば
雪雲に故国を遠くポプラ立つ
水仙の香を吸いながら活けており
わが母はわれに遠きや餅送り来
寒厨卵も餅も白ほのと
寒日和くだきし餅の干されける
独楽の渦記憶の底を回りたる
あたらしき薪を傍積み暖炉燃ゆ
餅を焼く火の色澄むを損なわず
鴨に目をやりて傘より雨しずく
眩しかり渚に並ぶゆりかもめ

春
 句美子二句
受験子の髪ふっくらと切り揃う
鉛筆を削る木の香の春めくを
白樺の二本の白も春浅し
 東山・法然院二句
間を遠く花は赤なり椿咲く
春寒し木を打ち人を呼び出せり
 東山・慈照寺二句
春苔に泉滴り深きみどり
花あしびしずけきものに山の路
梅の香のつんとせつなさ湧かしむる
独活放つガラスボールが水の玉
三椏の花に近づく空のあり
笹藪の春めく蒼さを通り過ぐ
 慶大日吉キャンパス二句
煙る銀杏芽吹く気配を一心に
宵風の白みて強し犀星忌
 銀座
春陰のどの地下口も入りやすし 

夏
万緑にひとり自尊をつよめける
麦の穂に山嶺いよいよ遠ざかる
風向きのままに牡丹の吹かれける
豆飯の飯の白さに風抜ける 
アカシヤの花に青空寄りかかる
明け易し山の水栓使いしあと
麦焼きの煙遠きを満たしける
天草の乾いた軽さを腕が抱く
祭笛山あじさいも街中に
大川に潮の匂うや三社祭
浜名湖の水の五月を新幹線 
ほととぎす啼きつつゆくも空の中
学生食堂ひとりの顔に夏日あり
葉桜に夜も残れる空の紺
明易し畳に二つ旅かばん
子が去りしことも静かや夏の歯朶
朝影のみどりの深き夏ポプラ
長き柄に団扇の風のぱっさぱっさ
赤薔薇に鉄扉晴れれば匂いけり
蛍ぶくろ霧濃きときは詩を生むや
夜の樹のどこかで蝉の羽音せり
洗濯機まわるよまわる水すずし
金魚鉢きらめくものを子が飼えり
 7合目辺り
稜線の夏空切るを見つ登る
 8合目富士山ホテル
宵寝する明るき窓の登山小屋
 9合目辺り
夏星を登りぬ一歩を岩に置き
 富士山頂午前4時45分
あたたかきご来迎なり登山者に
 富士山頂俳句リーディング
ラバに立てすぐ夏風の日章旗
朗読の声をさらいぬ富士夏風
松林に白百合まばら富士裾野

秋
道端の日に出てみどり濃きバッタ
パイプ椅子天の川へと向け置かれ
娘の秋扇たたまれ青き色の見ゆ
朝風のとんぼを運び海へ去る
暮れていて茄子の紺色つややかに
心すずしあらたな虫の鳴き始め
白皿に葡萄は露をこぼさざる
もろこしの枯るる畑に風あふる
 拉致された人の死
無花果のつめたさもてる人の死よ
鵙猛りそれより空の真っ青に
りんりんと虫音に力のありて闇
秋の潮満ち来る波の触れあいて
夜は軒陰に白菜星をほしいまま
冷ややかに朝の音楽身に透す
 河ひろこさんより
林檎手に送られ来しが赤ほのと
秋時雨沢石水を集めたる
うす紙がかりんをかたちのまま包む
しいの実の青くていまだ石の間に

冬
ストーブの出されしばかりが炎の清し
枯れ道の白くかがやく固さ踏む
北風吹ける湖を見ていて湖動く
森深き落葉時雨を目のあたり
冬月を待ちいる柱幾本も
 石鎚山二句
雪嶺の座りし空のまだ余る
雪嶺にこだま返すには遠き
荒星に富士の山小屋閉づるらむ 
鴨の池映れるものはみな映り
冬菊のことに黄菊のあたたかし
 砥部梅山窯
鉄扉閉め陶器工場の大暖房
干支未暮より金の耳をして
花丈の揃い真白なシクラメン
冬空はわがたましいのゆくところ
初旅にみずほの山の青を飛び
雪に閉じし富士火口を眼下にし
  伊予内子2句
木蝋屋閉じたり雪を休日に
雪垂(しず)る廊下伝いをたのしめり
七草の書架のガラスの透きとおり


インターネット俳句センター